生成AIは、調べもの、文章の言い換え、勉強のサポート、画像作成、アイデア出しなど、家庭でも使いやすい便利な道具になってきました。
一方で、便利だからこそ注意したいのが、子どもがAIに何を入力しているかです。
最近、家庭内のトラブルについて子どもがChatGPTに相談し、その回答をきっかけに児童相談所へ連絡、警察への通報、逮捕につながったという報道がありました。
気軽に家庭問題を相談できることは喜ばしいことですが、AIではなく直接近所の人や友だち、学校等の人間に相談できれば結果も違ったのかなと思われる内容でした。
AIは、子どもにとっても身近な相談相手になりつつあります。だからこそ、家庭で「AIに何を相談してよいのか」「困ったときは誰に相談するのか」を決めておくことが大切です。
IPAが公表した「情報セキュリティ10大脅威 2026」では、組織向け脅威の第3位に 「AIの利用をめぐるサイバーリスク」 が初めて選出されました。
これは企業や組織だけの話に見えますが、家庭でも無関係ではありません。
特に子どもがいる家庭では、次のようなリスクがあります。
- AIに本名、学校名、住所、顔写真などを入力してしまう
- AIの答えをそのまま信じて、誤情報を広めてしまう
- AIで作った文章や画像を、そのまま宿題やSNS投稿に使ってしまう
- AIを装った偽サイトやアプリにログイン情報を入力してしまう
- 相談相手としてAIに依存しすぎてしまう
この記事では、IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」をもとに、子どもがいる家庭でAIを安全に使うためのルールを整理します。
IPA「10大脅威2026」でAIリスクが初選出された意味
IPAの「情報セキュリティ10大脅威 2026」は、2025年に発生した情報セキュリティ上の事故や攻撃の状況をもとに、専門家や実務担当者などによる選考会で決定されたものです。
組織向けでは、次のように「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が第3位に入っています。
| 順位 | 組織向け脅威 |
|---|---|
| 1位 | ランサム攻撃による被害 |
| 2位 | サプライチェーンや委託先を狙った攻撃 |
| 3位 | AIの利用をめぐるサイバーリスク |
このAIリスクは2026年に初選出された項目です。

出典:独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「情報セキュリティ10大脅威 2026」組織編 プレゼンスライド
https://www.ipa.go.jp/security/10threats/10threats2026.html
ただし、個人向けの10大脅威を見ると、AIという名前の項目は直接出てきません。
個人向けでは、たとえば次のような脅威が挙げられています。
- インターネット上のサービスからの個人情報の窃取
- インターネット上のサービスへの不正ログイン
- ネット上の誹謗・中傷・デマ
- フィッシングによる個人情報等の詐取
- 不正アプリによるスマートフォン利用者への被害
- メールやSNS等を使った脅迫・詐欺の手口による金銭要求
これらは、子どもや家庭がAIを使うときにも関係します。
たとえば、AIに個人情報を入力すれば「個人情報の窃取」につながる可能性があります。
AIで作られた偽情報を信じれば「デマ」の拡散につながる可能性があります。
AIアプリを名乗る偽アプリを入れれば「不正アプリ」の被害につながる可能性があります。
つまり、家庭におけるAI対策は、単に「AIを使うか使わないか」の話ではなく、従来のセキュリティ対策をAI時代に合わせて見直すことだと考えた方がよいです。
家庭で一番大事なのは「AIに入れてはいけない情報」を決めること
子どもにAIを使わせる前に、まず家庭で決めたいのは、AIに入力してはいけない情報です。
生成AIは、こちらが入力した文章や画像に対して答えを返してくれます。
そのため、子どもが悩み相談や宿題相談のつもりで、思った以上に詳しい情報を入力してしまうことがあります。
家庭では、少なくとも次の情報はAIに入れないルールにしておくべきです。
| 入れてはいけない情報 | 具体例 |
|---|---|
| 本人を特定できる情報 | 本名、住所、電話番号、メールアドレス |
| 学校・生活圏がわかる情報 | 学校名、学年、クラス、制服写真、最寄り駅 |
| 顔や身体が写る画像 | 顔写真、友達の写真、家の中の写真 |
| 家族の情報 | 保護者の勤務先、家族構成、家計、病気、トラブル |
| アカウント情報 | ID、パスワード、認証コード、QRコード |
| 金銭に関する情報 | クレジットカード、銀行、スマホ決済情報 |
個人情報保護委員会も、生成AIサービスの普及を踏まえて、生成AIサービスの利用に関する注意喚起を公表しています。
家庭でも、子どもがAIに入力する内容を「検索ワード」くらい軽く考えず、誰かに見られて困る情報は入れないという感覚を持つことが大切です。
子ども向け家庭ルールは「禁止」より「使い方を決める」
AIを完全に禁止するだけでは、子どもが親に隠れて使う可能性があります。
それよりも、家庭内で使い方を決めた方が現実的です。
おすすめは、次の5つのルールです。
ルール1:AIに個人情報を入れない
AIに質問するときは、具体的な名前や場所をぼかします。
悪い例:
大阪府〇〇市の〇〇小学校5年2組です。友達の〇〇さんとトラブルになりました。どうしたらいいですか?良い例:
小学生です。友達とけんかをしました。仲直りするにはどうしたらいいですか?ポイントは、相談内容は入れても、本人や相手を特定できる情報は入れないことです。
ルール2:AIの答えをそのまま信じない
AIはもっともらしい文章を作るのが得意です。
しかし、答えが常に正しいとは限りません。
我が家でも娘とのやり取りでこんなことがありました。

お父さん
欲しいお菓子が○○○マート(コンビニ)に売ってるらしいから、
買ってきて。



OK
仕事帰りに寄ろう



2軒回ったけど売ってない・・・
売ってなかったよ・・・



あれ?
ChatGPTは売ってると言ってるよ。
結局は、私の住む地域とは別の地域なら販売されているようですが、
娘からすると近所の友達に聞いている感覚でChatGPTと会話しているようです。
そして、その内容を無条件に正しいと信じているようです。
前置きが長くなりましたが、特に注意したいのは、次のような内容です。
- 本来は人間に相談すべき内容
- 歴史や理科など、事実確認が必要な内容
- 医療、健康、薬に関する内容
- 法律やお金に関する内容
- ニュースや事件に関する内容
- 人を評価したり批判したりする内容
IPAの個人向け脅威にも「ネット上の誹謗・中傷・デマ」が挙げられています。
AIの答えをそのままSNSに投稿したり、友達に送ったりすると、誤情報の拡散に加担してしまう可能性があります。
家庭では、子どもに次のように教えるとわかりやすいです。
AIの答えは「正解」ではなく、「下書き」や「ヒント」として使う。
ルール3:宿題を丸投げしない
AIは作文、読書感想文、自由研究のアイデア出しにも使えます。
しかし、全部をAIに作らせてそのまま提出すると、学習になりません。
家庭でのおすすめルールは、次の線引きです。
| 使ってよい使い方 | 避けたい使い方 |
|---|---|
| テーマの候補を出してもらう | 作文全文を書かせてそのまま提出する |
| わからない言葉を説明してもらう | 計算問題の答えだけを出させる |
| 文章を読みやすくするヒントをもらう | 自分で考えずにコピペする |
| 調べる観点を整理する | 出典確認なしで事実として使う |
AIは「考える力を奪う道具」ではなく、考えるきっかけを増やす道具として使うのが安全です。
ルール4:AIアプリやAIサイトは保護者が確認する
「無料AI」「高性能AI」「画像生成AI」などを名乗るサービスの中には、利用規約や個人情報の扱いがわかりにくいものもあります。
IPAの個人向け脅威には「不正アプリによるスマートフォン利用者への被害」も含まれています。
AIを名乗るアプリであっても、実態としては広告目的、情報収集目的、あるいは不正なアプリである可能性も考えられます。
子どもが勝手にAIアプリを入れないように、家庭では次の設定を確認しておきたいです。
- スマホのアプリ追加に保護者承認を必要にする
- 年齢制限や利用規約を保護者が確認する
- Googleアカウント、Apple ID、Microsoftアカウントのファミリー設定を使う
- 課金やアプリ内購入に制限をかける
- 学校用アカウントでは勝手に外部AIサービスへログインしない
文部科学省の生成AIに関する資料でも、年齢制限、保護者の同意の必要性、生成物のライセンスなど、サービス提供者の最新の利用規約を確認して遵守する必要性が示されています。
ルール5:困ったときはAIではなく大人に相談する
子どもがAIに相談しやすい内容には、友人関係、学校生活、家庭の悩み、体調、見たくない画像やメッセージを受け取った場合などがあります。
ここで大事なのは、AIを相談相手の一つとして使うこと自体よりも、深刻な悩みをAIだけで解決しようとしないことです。
家庭では、次のように約束しておくとよいです。
AIに相談してもいいけれど、怖いこと・お金のこと・体のこと・誰かに脅されたことは、必ず大人に相談する。特に、SNSでの脅し、金銭要求、性的な画像の要求、個人情報の聞き出しなどは、AIに相談するだけで終わらせてはいけません。
IPAの個人向け脅威にも、メールやSNSを使った脅迫・詐欺による金銭要求が挙げられています。
大人世代も注意したいAI時代のセキュリティ
この記事の主な対象は子どもがいる家庭ですが、大人世代もAIリスクと無関係ではありません。
むしろ、大人の方が次のような情報をAIに入力しがちです。
- 仕事のメール文面
- 顧客情報
- 職場の内部情報
- 収入や資産の相談
- 病気や薬に関する相談
- 家族トラブルや相続の相談
- 契約書や請求書の画像
特に、仕事で使う情報や個人情報をそのままAIに入力するのは避けるべきです。
たとえば、次のような使い方は危険です。
この顧客からのクレームメールに返信文を作ってください。
氏名:〇〇
住所:〇〇
電話番号:〇〇
契約内容:〇〇この場合は、次のように個人を特定できる情報を削除してから使います。
顧客から納期遅延に関するクレームを受けました。
謝罪、原因説明、再発防止策、今後の対応を含めた返信文を作ってください。AIは便利ですが、入力する情報を間違えると、情報漏えいの入口になります。
家庭内でも、保護者自身が安全な使い方をしていないと、子どもに正しい使い方を教えることは難しくなります。
家庭で今日からできるAIセキュリティ対策チェックリスト
家庭でAIを使う場合は、まず次の項目を確認してみてください。
| チェック項目 | 確認 |
|---|---|
| 子どもが使っているAIサービスを保護者が把握している | □ |
| AIに本名・住所・学校名・顔写真を入れないルールがある | □ |
| AIの答えをそのまま信じないと教えている | □ |
| 宿題や作文をAIに丸投げしないルールがある | □ |
| AIアプリのインストールに保護者承認が必要になっている | □ |
| 課金やアプリ内購入に制限をかけている | □ |
| SNSやチャットでAI生成画像を送るときの注意を教えている | □ |
| 困ったときはAIではなく大人に相談する約束がある | □ |
| 保護者自身も仕事や個人情報をAIに入れないようにしている | □ |
全部を一度に完璧にする必要はありません。
まずは、個人情報を入れない、AIの答えをうのみにしない、困ったら大人に相談するの3つから始めるのがおすすめです。
家庭内で使える「AI利用ルール」例
そのまま家庭内のルールとして使うなら、次のような形がわかりやすいです。
以下の内容は我が家でも印刷してホワイトボードへ貼っています。
わが家のAI利用ルール
1. 本名、住所、学校名、顔写真、電話番号、パスワードはAIに入れない
2. 友達や家族の個人情報もAIに入れない
3. AIの答えはそのまま信じず、他の情報でも確認する
4. 宿題はAIに丸投げせず、自分で考えるために使う
5. AIで作った文章や画像をSNSに出す前に、保護者に確認する
6. 怖いこと、お金のこと、体のこと、脅されたことはAIだけで解決しない
7. 新しいAIアプリやAIサイトを使うときは、先に保護者に相談する

子どもに細かい規約を読ませるよりも、まずはこのような短いルールを決めた方が実践しやすいです。
AIは危険だから禁止、ではなく「安全に使う練習」が必要
AIは今後、学校、仕事、生活の中でさらに身近なものになっていくはずです。
そのため、家庭で大切なのは「AIは危険だから使わせない」と一方的に禁止することではありません。
大切なのは、子どもが小さいうちから、次の感覚を身につけることです。
- 入力してよい情報と、入れてはいけない情報を分ける
- AIの答えをそのまま信じない
- 自分で考える部分を残す
- 人を傷つける使い方をしない
- 困ったときは信頼できる大人に相談する
IPAは、学校向け・一般向けの情報セキュリティ教材も公開しており、家庭学習を行う児童・生徒向けの無料オンライン学習ツールなども紹介しています。
AI時代の家庭内セキュリティは、難しい専門知識よりも、日々の小さなルール作りが重要です。
まとめ:家庭のAI対策は「個人情報」「うのみ」「偽アプリ」から始める
IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」では、組織向けの第3位に「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が初選出されました。
個人向けの10大脅威にはAI単独の項目はありませんが、個人情報の窃取、不正ログイン、デマ、フィッシング、不正アプリ、SNSを使った詐欺など、家庭でAIを使うときに関係する脅威が多く含まれています。
未成年の子どもがいる家庭では、まず次の3つを徹底するだけでも、かなり安全になります。
1. AIに個人情報を入れない
2. AIの答えをそのまま信じない
3. AIアプリやAIサイトを勝手に使わせないAIは、正しく使えば学習や生活を助けてくれる便利な道具です。
しかし、使い方を間違えると、個人情報の流出、誤情報の拡散、詐欺サイトへの誘導などにつながる可能性があります。
子どもにAIを使わせるなら、まずは家庭でルールを決める。
そして、大人自身も安全な使い方を見せる。
それが、AI時代の家庭における一番現実的なセキュリティ対策だと思います。









